元富士通の子会社でスマートフォンとしてArrowsブランドを展開していたハードウェア製造会社FCNTが民事再生に入った。
スマートフォン市場は2020年ごろから飽和しつつある。
背面にトリプルカメラ(標準、望遠、広角)を搭載したiPhone11以降、レンズの数の代償は有れどハードウェアの目新しさは無くなってしまった。
iPhone8のホームボタンの押し込んだ感覚の再現は物理亭なボタンのような感覚で、技術的に驚いたが、現在ではアンドロイドでも画面を押す感覚に似た振動挙動がある。
OSのほうはAI支援が導入され今後も発達していくのだろうけど、実情から言えば多くの人はAIの支援を必要としない。
メッセージアプリによるチャット、音声通話、静止画像の取得とデータのやり取り、動画によるコミュニケーション、各種SNSの閲覧と投稿、NFCによる決済、GPSによる地図の閲覧とナビゲーション。
そしてゲーム。
現在のハードウェアに必要なのは、ゲームが目的でなければ、一通りこなせるだけのCPUと一日電源が維持できるバッテリーだけである。
富士通の最初のスマートフォンは富士通東芝モバイルコミュニケーションズからREGZA Phone T-01Cが2010年12月に発売されている。
この機種は発熱やバッテリーの持ちが悪く、そもそもOSが煩雑にフリーズしてまともに使えるものではなかった。
2010年当時、Andoroidスマートフォンとしては韓国サムソン、仏ソニーエリクソン、台湾HTCの物が流通していた。
2008年7月から iPhone3Gがソフトバンクより発売されて、日本でもスマートフォンの概念が普及し始めた。
Auは2011年から、ドコモはさらに遅れて2013年からの発売であった。
スマートフォンは使いたいながら、国産メーカーのものが欲しいと考える保守的な層にとっては富士通東芝のブランドは魅力的だった。
これは日本人が韓国や台湾などのメーカーを新興国由来として日本企業に比べて格下に捉えていた風潮に由来する。
スマートフォン以前、ガラケーと呼ばれていた携帯電話では技術的に飽和していたこともあり国内メーカー品が春秋に発売されていた。
ドコモなど携帯電話網の提供側から回線普及のためとして、販売奨励金などが携帯電話の製造メーカーに支払われていた。
そのため実際のハードウェアの製造原価が8万円程度であるにもかかわらず、新製品であっても1円など非常に安価な値付けで一般ユーザーに販売された。
配布に近い形であり、狭い国内市場のシェアを競っていた。
これらの従来の携帯電話の使用者が同じ携帯番号を使いたいという理由と、従来使っていた国内メーカーの機種を使用したいという理由からArrowsは購入された。
ガラケーを生産・販売していた国内メーカーはガラケーの終了期に携帯電話生産事業から多くが撤退していた。
2008年、三菱電機、ノキアが撤退し、三洋電機は京セラに事業を売却している。
パナソニックは2009年に、NECは2013年にスマートフォンから撤退している。
これらのガラケーメーカーがスマートフォンへの事業の切り替えが出来なかったのは、端的には技術力がなかったためである。
Andoroidスマートフォンについては、ハードウェア、ソフトウェア共にGoogleからリファレンスモデルが提供されていた。
各メーカーはこのリファレンスモデルをもとに、部品を揃えて組み付け、OSを搭載すればスマートフォンの生産販売が出来た。
しかし当時の日本の技術者はガラケーに特化していた。
ガラケーは数年間の技術ノウハウの蓄積であり、技術屋は既存のハードから新規のハードに置き換えられなかった。
またソフトウェアもガラケーは日本独自のTRON OSであり、組み込み用リアルタイムOSとしてはこなれていた。
しかしAndoroidスマートフォンの、ネットワークに親和性の高いLinuxはあまり馴染みがなかった。
2005年ぐらいのころ、ソフトウェアエンジニアはガラケーのTRON OS上に構築されたJAVA環境で、ゲームのFinalFantasyの移植とデバッグをやっていたと聞いたことがある。
要求される技術が違ってきていたところに、スマートフォンへの移行が起こった。
Arrowsブランドは基礎性能の低さから他社に乗り換えが進み、次もまたArrowsというユーザーは減っていた。
当時はまだ奨励金などが還付されたため、店頭販売金額がとても低く抑えられており、買い替え頻度も他かった。
その後もArrowsブランドについてはワンセグ機能や赤外線通信機能、健康管理アプリなどでアピールをしていた。
それらの追加機能が、普段使うユーザーの求める機能であったのかは判らない。
が、売れ筋のスマートフォンとして、iPhone、Galaxy、Xperiaそしてシャープのモデルというようなランキングであったかと思う。
スマートフォンの普及が進む中、シニア層向けにらくらくスマートフォンは2012年から発売されている。
これは独自のボタン型ユーザーインターフェースを有しており、また物理的なホームボタンが用意されている。
一般的なAndoroidスマートフォンの操作法とは非常に異なる印象であり、らくらくフォンというインターフェースに慣れる必要があった。
Andoroidがそのルック&フィールを自分用にカスタマイズ出来ることに比べると、追加したアプリのUI画面への登録も判りづらかった。
上記のようにFCNT社の作るスマートフォンは他のAndoroidスマートフォンに比べれば独自路線であり、一般ユーザーから選ばれる要因は少なかった。
製品が売れないならば会社は存続しない。
ディスプレイのJEOL、半導体のルネサスエレクトロニクス、FCNT。
日本で電子部品関連を組み立て販売するのは、世界的な技術から遅れてしまい、もう無理なのかもしれない。